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合衆国再生   バラク・オバマ  棚橋志行訳    ダイヤモンド社  [読書]

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 これほど多面的に、深く社会のことを考えている指導者が今の日本にいるかだ。田中角栄の「日本列島改造論」以来日本の数ある歴代首相がゴーストライターが見え見えの本をお仕着せのように出版し、最近では安倍元首相や麻生首相も自分の得意とするテーマ(教育や外交)について書いているが、いづれも軽く読め、政治家として今の日本社会をどのように考え、どのようにしたいかの根本的な理念がない。政府見解に反するとして一部自民党議員の同情をかいつつ首になった自衛隊の田母神空幕長の日本はいい国だとする幼稚な論文を形を変えて言っただけのものに過ぎない。かといって民主党による政権交代はあり得ない。官僚主義の弊害は民主党の方が、自民党よりひどい。自民党が徴兵制施行のような国民の総スカンを食らうような思い切ったことを言わない限り、民主党による弊害を国民は許容できないだろう。要するに民主党から首相が出たからといって日本は決してよくなることはなく、かえって官僚主義の弊害は増すだろうということ。
 その点では共和党と民主党が争い、どちらもが政権につくことで官僚を常にチェックできる米国の大統領制がほんとうらやましい。
 本の内容は世界最強の国の、しかも初めての黒人大統領になる人の話として興味深々と読めた。民主党代表がヒラリーでなく、オバマに決まったとき、私は共和党のマケインが勝つと誤った予測をした。これはその後の米国発のサブプライムローンを発端とする金融不況(これは原則は市場経済に任せておき、政府はそれを補完するできるだけ小さな役割に徹すべきだとする共和党の主張が認められなかったことを意味する)を読めなかったこと、それにアメリカの人口が黒人、アジア人、ヒスパニック等の白人以外の人達がものすごい勢いで増えつつある現状を正しく認識していなかったことによる。
 アメリカは1776年独立戦争に勝利して以来、その憲法に高らかに宣言されているように個人の自由と尊厳が最も重視されるべきであり、自分の能力や勤勉によって豊かにも貧しくもなれ、それは全部自分の責任であるという価値観をもっていた。そのために絶対主義を廃し、立法、司法、行政の三権分立によって相互にチェックが有効に働く体制が作られた。また何人も自分の意見の妥当性や真実性に満足できなくなった時点でそれを保持する義務を感ぜず、議論という力に素直に向き合う(p.96)。現在政府の無能や圧制に苦しむ国民の何と多いことか。それに比べてアメリカの為政者、特に独立時の彼らがいかに偉大であったか、自由がいかに大切なことであるか改めて認識させる。ハミルトンとリンカーンの基本的な洞察、つまり中央政府の資源と権力は活力に満ちた自由市場にとって代わるものではなく、それを円滑に動かすことができるものであるという洞察は、アメリカが発展を遂げていくあらゆる段階で、民主、共和両党の政策の礎となった(p.166)。
 ニューディール政策で世界不況を脱却したアメリカは第二次世界大戦でも勝利し、戦後もその圧倒的な経済力で、ヨーロッパや日本の復興を助け、IMF、世界銀行、BIS,OECD等のブレトンウッズ体制を築き、共産主義国家の崩壊とともに今では世界で唯一の超大国となっている。その国内総生産(GDP)は今でもインド、中国を合せたよりも大きい。
 しかし、戦後40年たち、その間にアメリカの凋落は進んでいた。まず1971年固定相場制から変動相場制への移行、1975年ヴェトナム戦争の敗北、それにも関わらず世界各国が喜んでドルを保有し続けることからアメリカの財政赤字と国際収支の赤字は際限なく拡大を続け、それが一機にその矛盾を露呈し、2008年のサブプライムローンの破綻から世界各国の金融不況を招いている。アメリカの軍事費は年間5220億ドル、2位以下の上位30カ国を合わせたよりも多い(P.348)。これを世界各国がドルをもち続けることでまかなっていたことになる。今や日本や中国のドル債権保有は1兆ドルを超え、売ることさえままならない。
 それに従い共和党も民主党も新しい政策を求められているといえる。しかし、今は皆が自分の権利を主張し、皆が自分を認めろと主張し、皆がテーブルの席とパイの分け前を求めている(p.33)。
 ブッシュはアメリカをイラク戦争の泥沼に引きずりこむと同時に、その政策によってアメリカ社会の格差を拡大させた。1980年、平均的な最高経営責任者(CEO)に支払われる手取り収入は平均的な時間給労働者の42倍だったが、2005年には262倍になっている(p.69)。さらに会社の最高経営者(CEO)が従業員の医療保険を削りながら自分に、何百万、何千万ドルのボーナスを出すなんて信じられない(p.76)。1971年から2001年までの平均的な労働者の平均賃金とサラリー収入は全く上っていないのに、上から0.01%の人々の収入はおよそ5倍に跳ね上がっている(p.213)。この30年でアメリカ人の平均収入の伸びは、インフレ調整後で1%を切っている。いっぽう、住居から医療、教育にいたるまで、あらゆるものの費用は着々と上ってきた。アメリカの大多数の家庭を中流階級からの転落から守ってきたのは、お母さんの稼ぐ給料だった(p.384)。お母さんのもたらす余分の収入は贅沢品に向かうわけではない、子供の将来への投資、幼児教育や大学授業料、とりわけ公立学校が安全な地域にある住まいに使われている
(p.384)。
 今のアメリカ人は裕福なことや、スリムなこと、若いこと、有名なこと、安全なこと、楽しみを得られることにしか関心をもっていないのではないか、次の世代に残す財産が大事だといいながら、その世代に山のような借金を負わせる、機会均等があるべき姿と信じているといいながら、何百万のアメリカの子供が貧困に苦しんでいる状況に手をこまねいている(p.77)。
 これに比べると日本の経営者は会社の経費は使っても誰も文句を言わない。しかし、アメリカほどの高給をとってはいないし、一般サラリーマン、労働者との間にアメリカほどの格差があるとは思えない。しかし、日本国民はアメリカやヨーロッパ諸国以上に金権主義に染まっているといる。中国の次ぐらいではないか。また自分さえ良ければと言う考えが当然視され、マスコミもそれを助長している。子孫に膨大な借金を負わせているばかりか、その反省すらなく、未だに膨大な財政赤字を続けているのを何とも思わないばかりか、全体で助け合って生きていくという発想が全くない。「政府は私達の問題を解決する手段ではない。政府こそ問題なのだ」(p.161 ロナルド・レーガン)。あるいはケネディーは「国が私達に何をしてくれるかではなく、私達が国のために何が出来るかを考えよう」と言った。この言葉を今の日本人やマスコミはどのように考えているのだろう。政府や裁判では得手勝手な要求ばかりして、自分の責任など考えることなく、また国民が国民なら、政治家も国民が政府に対する信頼を持つよう最善の努力をすべきだが、やっていることは全くその逆でばら撒き財政によって自分が当選することばかり考えている。政治家は道徳的な姿勢を失い、大衆の意見という風にすっかり流されている(p.74)。
 アメリカには法の下での平等という考えを中核にすえている憲法(p.259)をもち、それに国教禁止条項があり、また他のどんな国にも劣らず、地位や肩書や身分に関係なく来る者みんなに機会を提供してきた経済システム等良い面が多々ある。
 しかし、現在のアメリカは、国家債務が9兆ドル、年間の財政赤字が3000億ドル近い今、アメリカが国民を助けられる資源はほとんどない(p.278)。黒人社会についてはスラム地区の貧しい人々の状況が悪化している点、ラテン系は不法就労者と入国をめぐる政治的な騒動(p.280)。増大するワーキングプア(低収入労働者)。
オバマ氏は言う、戦略の重点を福祉ではなく、仕事に置く必要がある、仕事は自立と収入をもたらすだけでなく、人生に秩序や構造や威厳や成長の機会をもたらす(p.287)。ヨーロッパの飢饉と戦争と固定化した社会階層を逃れてきた人々、まともな法律関係書類も縁故も提供できる独自の技術も持たなかったかもしれないが、より良い生活を願ってやってきた人々(p.302)。彼らのことを常に考えねばならない。そして「あの男は財をなして死んだと言われるより、人の役に立つ人生を生きたと言われたい」と(p.413)。いづれも日本の政治家にその爪の垢でも煎じて飲んだらと言いたいことだ。
 私はオバマ氏がイラク戦争の終結その他の彼の信条を実現し、大統領職を無事果たされることを期待してやまない。彼がアメリカ大統領を辞めるときにはワーキングプアの問題も解決され、また財政や国際収支の改善がみられるとともに、世界中の人々から強いアメリカへの信頼感が増しているものと思う。既にヒラリー氏の国務長官への起用やロバーツ・ゲイツ国防長官の留任を発表するなど日本では考えられない人事を見ても私は期待している。

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コメント 1

odQ

バラク オバマ大統領には世界中が期待しています

競争相手のヒラリー氏を国務長官に・・
スケールの大きさも感じます

日本も何とかして下さい

オバマ氏の関する
続報も期待してます----

by odQ (2009-01-21 21:40) 

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